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経営相談において、頻繁に寄せられる相談の一つが「顧客がリピートしない」という悩みです。しかし、この問題提起自体に、重大な認識の誤りが含まれている場合があります。
本稿では、リピート率向上という課題に対して、科学的な分析手法と段階別の対策を提示します。
相談者から「顧客がリピートしない」という訴えを受けた際、まず確認すべきはその認識の妥当性です。
【論理的検証】
前提:「顧客がリピートしない」
結果の推論:リピート客がいない → 売上がない → 事業継続不可能
現実:事業は継続している
結論:前提は誤りである
【正しい認識】
「顧客が全くリピートしない」のではなく、 「リピート率が期待値より低い」または 「特定の段階で離脱率が高い」
事業が継続しているという事実は、以下を意味します。
【事業継続が示す事実】
この事実認識が、冷静な問題分析の出発点です。
【例外的状況】 ただし、以下の場合は別途対応が必要です:
「リピートしない」という漠然とした表現を、具体的な経営課題に再定義します。
【適切な問題定義の例】
【問題定義の5W1H】
カスタマージャーニーとは、顧客が製品・サービスを認知してから、ファン顧客になるまでの一連のプロセスを指します。
【基本的なカスタマージャーニー】
認知 → 興味 → 検討 → 初回購入 → 再購入 → 継続購入 → ファン化
サービス業における典型的な段階は以下の通りです。
【サービス業のカスタマージャーニー段階】
| 段階 | 顧客の状態 | 重要指標 |
|---|---|---|
| ステージ0 | 潜在顧客(未認知) | 認知率 |
| ステージ1 | 見込み客(認知済み) | 問い合わせ率 |
| ステージ2 | 初回顧客(トライアル) | 成約率 |
| ステージ3 | 再来店客(リピート開始) | 再来店率 |
| ステージ4 | 継続顧客(定着開始) | 3回目来店率 |
| ステージ5 | 優良顧客(高頻度利用) | 来店頻度 |
| ステージ6 | ファン顧客(推奨者) | NPS、紹介率 |
リピート率の問題を解決するには、どの段階で顧客が離脱しているかを特定する必要があります。
【重要な分岐点の特定】
質問1:初回→2回目の移行率は?
質問2:2回目→3回目の移行率は?
質問3:3回目以降の継続率は?
【離脱の主な原因】
初回体験の不満足
アフターフォロー不足
心理的障壁
【対策の方向性】
a) 初回体験の最適化
b) アフターフォローの体系化
【推奨フォロープロセス】
来店当日:御礼メッセージ(24時間以内)
↓
3日後:状態確認メッセージ
↓
7日後:次回提案メッセージ
↓
14日後:リマインド(予約がない場合)
↓
30日後:最終フォロー
c) 心理的障壁の低減
【離脱の主な原因】
価値実感の不足
関係性の希薄さ
競合への流出
【対策の方向性】
a) 継続的価値の可視化
b) 関係性の深化
c) スイッチングコストの創出
【必須測定指標】
| 指標 | 計算式 | 業界標準値(参考) |
|---|---|---|
| 再来店率 | 2回目来店数 ÷ 初回来店数 × 100 | 40〜60% |
| 3回目来店率 | 3回目来店数 ÷ 2回目来店数 × 100 | 60〜80% |
| 継続率(6ヶ月) | 6ヶ月後も来店している顧客 ÷ 6ヶ月前の顧客 × 100 | 30〜50% |
| リピート客比率 | リピート客数 ÷ 全顧客数 × 100 | 60〜80% |
【コホート分析とは】 同時期に初回来店した顧客グループの行動を時系列で追跡する分析手法
【コホート分析の例】
| 初回来店月 | 初回 | 2回目 | 3回目 | 4回目 | 5回目 | 6回目 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1月(20人) | 100% | 55% | 40% | 35% | 30% | 28% |
| 2月(25人) | 100% | 60% | 48% | 42% | 38% | – |
| 3月(18人) | 100% | 50% | 39% | 33% | – | – |
この分析により、どの段階で何%が離脱しているかが明確になります。
【作成すべき要素】
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| 顧客の行動 | 各段階で顧客が実際に行うこと |
| 顧客の感情 | 各段階での感情状態(不安、期待、満足等) |
| 接触点 | 事業者と顧客の接点(来店、メール、SNS等) |
| 提供価値 | 各段階で提供すべき価値 |
| 課題・障壁 | 次の段階への移行を妨げる要因 |
| 対策 | 課題を解決するための施策 |
単に現状を分析するだけでなく、理想的なカスタマージャーニーを設計します。
【理想的なジャーニーの例】
【初回来店】
行動:施術を受ける
感情:期待と不安が混在
提供価値:期待を超える体験、安心感
対策:丁寧なカウンセリング、初回特典
【来店後1週間】
行動:効果を実感、日常に戻る
感情:満足、でも再予約は迷い
提供価値:効果の実感、継続の必要性理解
対策:フォローメール、Before/After写真提供
【2回目来店】
行動:再来店
感情:信頼感の芽生え
提供価値:パーソナライズされた提案
対策:前回の記録を踏まえた施術、会員特典案内
【3回目以降】
行動:定期的な来店
感情:信頼、特別感
提供価値:継続的な改善、コミュニティ感
対策:上位顧客優遇、紹介特典
すべての段階に均等に投資するのではなく、最も効果的なポイントに集中投資します。
【投資優先順位の決定方法】
【典型的な優先順位】 多くのサービス業において、初回→2回目の移行率改善が最も高いROIを示します。
【理由】
この分析手法は、業種を超えて応用可能です。
【業種別のカスタマージャーニー離脱ポイント】
| 業種 | 典型的な離脱ポイント | 主な対策 |
|---|---|---|
| 飲食業 | 初回→2回目 | リマインダー、次回割引券 |
| 小売業 | 2回目→定期購入 | ポイント制度、メルマガ |
| フィットネス | 契約→継続利用 | コミュニティ形成、進捗可視化 |
| 教育業 | 体験→入会 | 無料体験の質向上、入会特典 |
| BtoBサービス | トライアル→本契約 | 導入支援、効果測定レポート |
【ステップ1:現状把握】
【ステップ2:仮説立案】
【ステップ3:対策実行】
【ステップ4:カスタマージャーニーマップ作成】
【ステップ5:体系化と最適化】
顧客リピート率の向上は、漠然とした取り組みではなく、科学的な分析と段階別の戦略的施策によって実現されます。
【本稿の要点】
問題の正確な定義が出発点
カスタマージャーニーの段階別分析
段階ごとに異なる対策
継続的な測定と改善
「あるべき姿」の明確化
【最後のメッセージ】
事業が継続しているという事実は、 あなたには既にリピート顧客がいることを意味します。 その基盤の上に、科学的な分析と戦略的施策を積み重ねることで、 さらなる成長が実現できます。
【参考概念・用語】
【推奨ツール】
【参考文献】