目次
前稿までに、上位顧客への戦略的優遇施策と、中位顧客の上位化(来店頻度の向上)について論じました。本稿では、収益性改善の第三の柱である**「客単価の向上」**、具体的には価格改定の実践について解説します。
価格改定は、多くの小規模事業者にとって心理的ハードルの高い経営判断です。しかし、事業の持続的成長と適正な利益確保のためには、避けて通れない重要な戦略的施策です。
顧客生涯価値(LTV)を最大化するための3つの要素を再確認します。
【LTV向上の3要素】
これまでの施策により、購買頻度は既に改善されました。次のステップは、1回あたりの取引額を適正化することです。
回数券導入から3ヶ月後、以下の施策を実施しました。
【実施内容】
この判断は、単なる「値上げ」ではなく、提供価値と価格の整合性を図る戦略的な価格最適化です。
価格改定が正当化される背景には、以下の経営実態があります。
【価格改定の根拠】
技術・サービス品質の向上
設備投資の実施
提供価値の拡大
価格設定には、主に以下の3つのアプローチがあります。
| 価格設定方式 | 基準 | 特徴 |
|---|---|---|
| コストベース | 原価+利益 | 最も基本的な方式 |
| 競争ベース | 競合価格 | 市場相場に追随 |
| バリューベース | 顧客価値 | 提供価値に基づく設定 |
小規模事業者が目指すべきは、バリューベース価格戦略です。つまり、顧客が認識する価値に見合った価格設定を行うことで、適正な利益を確保します。
価格改定は、単なる収益向上策ではなく、戦略的な顧客選別機能も果たします。
【価格改定がもたらす効果】
価格改定の実施
↓
【自然な顧客セグメンテーション】
↓
┌─────────────────┐
│ 新価格でも継続する顧客 │
│ =価値を理解する顧客 │
│ =高収益性顧客 │
└─────────────────┘
新価格に対応できる顧客とは、以下の特徴を持ちます。
価格改定により、事業の顧客構成が以下のように変化します。
【改定前の顧客構造】
【改定後の顧客構造】
この転換により、以下の経営効果が生まれます。
【定量的効果】
【定性的効果】
価格改定に際し、多くの事業者が以下の不安を抱きます。
【典型的な不安要素】
筆者自身も、実施時には強い不安を感じました。
しかし、実施後の経験から確信を持って言えるのは、適切な価格改定は事業にとって必要不可欠だということです。
【推奨される思考フレームワーク】
長期視点の採用
顧客との関係性の再定義
自己価値の正当な評価
この価格改定モデルは、業種を超えて応用可能です。
【業種別の価格戦略例】
| 業種 | 価格改定のタイミング例 | 改定の根拠 |
|---|---|---|
| 飲食業 | メニュー刷新時、店舗改装後 | 食材品質向上、空間価値向上 |
| 士業 | 専門資格取得後、実績蓄積後 | 専門性向上、ノウハウ蓄積 |
| 製造業 | 新技術導入時、品質認証取得後 | 技術力向上、信頼性向上 |
| 教育業 | カリキュラム改定時、講師増員時 | 教育内容充実、サポート体制強化 |
| 小売業 | ブランド確立後、サービス拡充時 | 付加価値増加、顧客体験向上 |
共通するのは、**「提供価値の向上に伴う、価格の適正化」**という原則です。
【事前準備チェックリスト】
【顧客への伝え方の原則】
【実施後の対応】
価格改定は、事業の成長プロセスにおける自然かつ必要な段階です。
【本稿の要点】
事業者自身が提供する価値を正当に評価し、それに見合った価格を設定する。この当然の原則を実行することが、持続可能な事業経営の基盤となります。
次稿では、価格改定実施時の具体的な心理的プロセスと、顧客とのコミュニケーション手法について、より詳細に論じます。
【参考概念】
【推奨図書】