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執筆者:渡辺益代(個人サロン経営コンサルタント・あいち産業振興機構創業アドバイザー)
月商100万円を安定的に達成する事業体には、共通する明確な特徴があります。それは「望ましい顧客との出会い」と「その顧客の継続的なリピート」という、極めてシンプルな構造です。
この原則は、特別な才能や資源がなくても実現可能であり、優れた技術やサービスを保有する事業者であれば、さらに再現性が高まります。重要なのは、自社の売上構造を客観的に分析し、適切な経営資源配分を行うことです。
まず実施すべきは、顧客別売上貢献度の定量分析です。
【分析手順】
この分析により、事業の売上構造が明確になります。
筆者自身のサロンにおいて、月商50〜70万円で推移していた時期にこの分析を実施したところ、驚くべき事実が判明しました。
【分析結果】
これは、経営学における「パレートの法則(80:20の法則)」を実証する結果でした。すなわち、売上の約80%は、わずか20%の顧客によって創出されるという原則です。
この分析から得られた重要な経営課題は、**「30名の顧客喪失が事業存続に直結する」**という事実でした。
これは「バスタブ理論」として知られる顧客維持の概念とも合致します。バスタブに水を注ぎ続けても、栓が抜けていれば水は溜まりません。同様に、新規顧客を獲得し続けても、既存顧客が流出すれば事業は成長しないのです。
この課題に対する解決策として、高田靖久氏の著書『お客様は「えこひいき」しなさい!3倍売れる「顧客差別」の方法』に基づく戦略を採用しました。
【理論的根拠】
全顧客を均等に扱うのではなく、高貢献度顧客に経営資源を集中投下することで、顧客満足度とロイヤルティを高め、結果として事業全体の収益性を向上させる戦略です。
上位30名の顧客に対し、以下のような差別化施策を体系的に実施しました。
【感情的価値の提供】
【物理的サービスの差別化】
これらの施策を効果的に実施するには、顧客への深い理解と関心が不可欠です。
【実践手法】
この取り組みにより、予想外の効果も生まれました。
【観察された現象】
一見不思議に思えるこれらの現象は、神経言語プログラミング(NLP)の理論で説明可能です。
【心理学的メカニズム】
つまり、顧客への意識的な関心が、行動パターンや注意の向け方を変化させ、結果として接触機会の増加につながるのです。
現在も、上位顧客への優遇施策については、さらなる改善余地があると考えています。
【今後の展開案】
本事例で示した「顧客差別化戦略」は、業種を問わず適用可能な普遍的なビジネスモデルです。
【業種別応用例】
| 業種 | 具体的施策例 |
|---|---|
| 飲食業 | VIP席の設定、シェフとの交流会、限定メニュー提供 |
| 小売業 | プライベートセール、専任スタッフの配置、優先予約 |
| 士業・コンサル | 優先対応、専門情報の先行提供、特別料金設定 |
| 製造業(BtoB) | 専任担当者の配置、開発段階からの情報共有、納期優遇 |
小規模事業者にとって、限られた経営資源をどこに配分するかは、事業の成否を左右する重要な意思決定です。
【本稿の要点】
この「選択と集中」の戦略は、顧客満足度の向上、リピート率の向上、そして最終的には事業の持続的成長をもたらします。
高田靖久氏の理論と実践に深く感謝するとともに、本稿が異なる業種・業態の事業者の皆様にとって、実践的な示唆となることを願っています。
【参考文献】